トピックス
2020/08/19 新法・法改正・判例紹介トピックス 法改正
債務不履行
債務不履行による損害賠償の帰責事由の明確化
1 はじめに
債務者が契約に基づく債務を履行しないときは、債権者は、履行の強制(民法414条)、損害賠償請求(民法415条)、契約の解除(民法541条、542条)などの手段をとることができます。
これらのうち、債務不履行に基づく損害賠償請求について、改正前民法は、履行不能の場合、債務者に帰責事由があることを要件として明記していましたが(改正前民法415条後段)、解釈上は履行不能のときだけでなく、履行遅滞の場合でも、債務者に帰責事由があることが損害賠償請求の要件であるとされていました。
2 改正点
改正法においては、これまでの判例や一般的な解釈を踏まえ、履行不能の場合に限らず、債務者に帰責事由がないことが免責事由になることが明記されました。
つまり、①債務がその本旨に従って履行されず(債務不履行)、②それによって(因果関係)、③債権者に損害が生じた場合には(損害の発生とその数額)、原則としてその損害賠償請求は認められるが、④その債務不履行が、債務者の責めに帰することができない事由であるときには損害賠償義務を免れるということが明記されました。
また、債務者の責めに帰することができない事由に該当するかどうかは、契約及び取引通念に照らして判断されることとされました。
(債務不履行による損害賠償) 第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。 2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。 ① 債務の履行が不能であるとき。 ② 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。 ③ 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、 又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。 |
3 経過措置
改正法施行日(令和2年4月1日)前に債務が生じた場合の債務不履行責任には、改正前民法が適用されることになります。債務不履行に陥った時期ではなく、債務が発生した時期が令和2年4月1日以降かどうかにより、改正法が適用されるかどうかが異なりますので、ご注意ください。
契約解除の要件に関する見直し
1 はじめに
改正前民法543条(履行不能による解除)は、債務者に帰責事由がないと解除が認められないと定めており、履行遅滞による解除や定期行為の履行遅滞による解除などの解除一般についても帰責事由が必要であると解していました。
2 改正点
改正民法においては、債務不履行による解除一般について、債務者の帰責事由を契約解除の要件にしませんでした。
例えば、売主Aと買主Bとの間で物品の売買契約が締結され、目的物がAからBに運ばれる途中、水害が発生し、交通が遮断された結果、約定日までにBに届けることができなくなったケースを想定してみます。
改正前民法において、水害の発生につきAの帰責事由はありませんので、Bはこの売買契約を解除することができませんでした。一方、改正法においては、債務者たるAの帰責事由は、解除の要件ではありませんので、相当の期間を定めた催告と相当期間の徒過が認められ、その不履行が軽微であると判断されない限り、契約の解除が認められることになります。
また、不履行が軽微かどうかの判断は、今後の裁判例の集積を見る必要がありますが、不履行部分が数量的にわずかである場合や、付随的な債務の不履行にすぎない場合などは、軽微であるとの判断がなされるものと想定され、債権者がこの契約に拘束される期待や利益を失っているかどうかが判断基準になるものと思われます。
(催告による解除) 第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。 |
3 経過措置
令和2年4月1日より前に成立した契約に関する不履行については従前の例により、同日後に成立した契約に関する不履行については改正法が適用されることになります。債務不履行に陥った時期ではなく、債務が発生した時期が令和2年4月1日以降かどうかにより、改正法が適用されるかどうかが異なりますので、ご注意ください。
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