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2021/10/05 新法・法改正・判例紹介トピックス 法改正
相続土地国庫帰属制度
本記事は、2021年4月28日に交付された民法等の改正に関するものです。施行日は公布日から2年以内とされていますが、2021年10月4日現在未定であり、本制度の詳細を定める政令も制定されていません。
1.相続土地国庫帰属制度の新設経緯
相続人において、経済的価値がない、管理ができない等の理由で、土地所有権を放棄したいというニーズは多くありますが、土地所有権を放棄できるのかどうかやその要件・手続き等に関する規定はありませんでした。
今回、相続土地国庫帰属法が制定され、所定の要件を充足している土地について、相続等により土地を相続した相続人からの申請があった場合、法務大臣の承認を受け、負担金を納付することによって、土地所有権が国庫に帰属する制度が新設されました。
2.内容
1)承認申請権者
申請権者は、相続又は相続人に対する遺贈により、土地の所有権の全部又は一部を取得した者です(法第2条1項括弧書・同第1条括弧書)。生前贈与、死因贈与、信託等による取得は含まれません。
相続の場合、これを契機に経済的利益のない土地であってもやむを得ずこれを所有しているケースが多いためです。また、相続人への遺贈と特定財産承継遺言の区別が容易でない場合があること、遺贈を放棄しても結局相続することになるため遺贈放棄していない場合があること等から、相続人に対する遺贈も本制度の対象となりました。
これに対し、非相続人への遺贈は、目的物が可分であればその一部を放棄することも可能と考えられていることから、本制度の対象とはなりませんでした。
共有地については、共有者全員が共同して承認申請をしなければなりません(法第2条2項前段)。相続・相続人に対する遺贈以外の理由により共有持分を取得した者も、これらによって共有持分を取得した者と共同で、承認申請をすることができます(同項後段)。
2)対象となる土地の要件
承認申請ができない土地及び法務大臣の承認処分ができない土地という形で、二段階の要件が設けられています。
ア.承認申請ができない土地(法第2条3項)
以下のいずれかにあたる土地については、承認申請できません。
・建物の存する土地
・担保権、用益権が設定されている土地
・道路が設置されている等、他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
・土壌汚染されている土地(土壌汚染対策法3条2項参照)
・境界不明土地
・所有権の存否、帰属、範囲に争いがある土地
イ.法務大臣の承認処分ができない土地(法第5条1項)
法務大臣は、以下の承認されない土地のいずれにも該当しないと認める場合、承認処分を行います。
・政令所定の基準に該当する崖がある土地で、その通常の管理にあたり過分の費用又は労力を要するもの
・土地の通常の管理・処分を阻害する工作物、車両、樹木その他の有体物が地上にある土地
・除去しなければ土地の通常の管理・処分をすることができない有体物が地下にある土地
なお、土地の通常の管理・処分の可否は、土地の性質に応じて判断されます。例えば、農地においては僅かな埋設物でも農作物作付けに影響し、土地の管理を阻害すると認められる可能性がありますが、広大な土地の一部に若干の埋設物が存在するにすぎない場合は、土地の管理には支障がないと認められることもありえます。
・隣接地の所有者等との争訟によらなければ通常の管理・処分をすることができない土地として、政令で定めるもの
前述のとおり、土地所有権の帰属や範囲そのものに争いがある場合には承認申請自体が認められませんので、土地所有権には争いはないものの、隣接地の竹木の枝や建物の庇が申請地内に大きく張り出している場合等が想定されています。
・その他、通常の管理・処分に過分の費用又は労力を要する土地として、政令で定めるもの
政令は未定ですが、不法占拠者がいる土地や買戻特約がある土地等が想定されています。
また、本制度新設時の審理資料によれば、例えば土地について何らかの法令違反がある場合、これをもって直ちに承認処分ができない土地に該当するものとする政令は想定されておらず、あくまで、法令違反の是正行為に可分の費用又は労力を要するといった事情が要件となることが想定されています。
3)手続きの流れ
相続土地の国庫帰属は、主として、以下の手続きによって行われます。
①承認申請権者による、承認処分の申請
法務省令所定の事項を記載し、また、必要書類を添付した承認申請書を、法務大臣あてに提出します。また、政令で、物価の状況、承認審査に要する実費その他の事情を考慮して、手数料が定められますので、これを納付する必要があります。
②法務大臣による審査
法務大臣は、必要があると認めるときは、職員をもって、承認申請地の実地調査、承認申請者その他の関係者からの事実聴取や資料提出要求、関係する公私の団体への資料提供要求、説明その他の協力要請をさせることができます(法第6条、7条)。
③財務大臣及び農林水産大臣への意見聴取
承認処分をしようとする場合、あらかじめ、財務大臣及び農林水産大臣に対し、土地の管理についての意見を聴かなければなりません。
ただし、農用地又は森林として利用されている土地ではないと明らかに認められる場合を除きます。
④法務大臣による承認処分
法務大臣は、承認申請地が承認されない土地に該当しないと認める場合、国庫帰属の承認をしなければなりません(法第5条1項)。承認処分は、一筆の土地毎に行われます(同条2項)。
なお、承認されない土地に該当しない場合でも、承認申請権者によらない申請、所定事項の記載や必要書類の添付がない申請、承認申請できない土地についての申請、承認申請者が手数料を納付しないとき、承認申請者が正当な理由なく承認審査に応じないときは、承認申請は却下されます(法第4条1項)。
⑤負担金の納付
法務大臣の承認処分の通知にあたっては、負担金の額も併せて通知されます(法10条第2項)。負担金の算定方法は、土地の種目毎に、その管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して、政令で定めるものとされています(同第1項)。国会審理においては、粗放的な管理で足りる原野であれば20万円程度、市街地の200㎡程度の宅地であれば80万円程度という目安が示されましたが、政令は未制定です。
承認申請者は、承認処分の通知を受けた日から30日以内に負担金を納付しなければならず、これを怠った場合、法務大臣の承認処分は効力を失います(同第3項)。承認者が負担金を納付した時をもって、土地所有権が国庫に帰属します(法第11条1項)。国の所有権取得は承継取得です。
⑥法務大臣から財務大臣・農林水産大臣への通知
法務大臣は、承認申請者が負担金を納付し土地所有権が国庫に帰属した場合は、当該土地が主に農地又は森林として利用されている場合は農林水産大臣に、その他の場合には財務大臣に、同旨通知します。
4)承認申請者の不正に関するペナルティ
ア.承認処分の職権取消し(法第13条1項)
承認申請者が偽り等不正の手段によって承認処分を受けたことが判明した場合、法務大臣は、職権によって、承認処分を取り消すことができます。法律上、職権取消しができる期間は規定されていません。
イ.損害賠償責任(法第14条)
国庫帰属した土地に、承認申請ができない事由や承認処分ができない事由があり、それによって国に損害が生じた場合、承認申請者が承認処分時点でこれを知りながら告げなかったときは、承認申請者は、国に対し、その損害を賠償する責任を負います。
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