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労働法トピックス

2022/04/15   労働法トピックス   労災  

腰痛の労災認定

 

 労働災害(労災)にあたるかどうかがよく問題になるのが、腰痛です。

 腰痛は、業務内容を問わず多くの方がり患する疾病であり、腰痛の生涯罹患率は85%と言われるほどです。

 

 労災にあたるというためには、業務遂行性(事業主の支配・管理下で生じたこと)及び業務起因性(業務に起因して生じたこと)が必要ですが、腰痛は日常生活における負荷に起因して生じることも多く、労災にあたるかどうかの判断が困難な場合が少なくありません。

※業務遂行性や業務起因性については、別のトピックス「労災保険における業務災害の認定」「労災保険における業務災害の認定」をご参照ください。

 そこで、厚労省は、労働者が訴える腰痛が労災にあたるかどうかの認定基準を定めています。
まず、その腰痛が(1)災害性の原因による腰痛であるか、(2)災害性の原因によらない腰痛であるのかの2種類に区分されます。それぞれの要件は次のとおりです。

<要件>

 

(1)災害性の原因による腰痛

  負傷等突発的な出来事による腰痛で、次の①及び②の要件をどちらも満たすもの。

  ① 腰の負傷又はその負傷の原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって

    生じたと明らかに認められること

  ② 腰に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症・基礎疾患を著しく悪化させたと

    医学的に認められること

 

 つまり、腰痛の既往症・基礎疾患があった場合には、その出来事がどの程度現在の症状に影響しているか、「著しく悪化させた」とまでいえるのかについて、医学的な判断が求められることになります。

 

 なお、いわゆる「ぎっくり腰」(腰椎捻挫による急性腰痛症)は、基本的には日常的な動作の中で生じるものとされており、たとえ業務中に発症しても、労災とは認められないと考えられています。ただし、発症時の動作や姿勢の異常性等から、腰への強い力の作用があった場合には業務上と認められることがあります。

 

(2)災害性の原因によらない(非災害性の)腰痛

 突発的な出来事が原因ではなく、重量物を取り扱う仕事等、腰に過度の負担のかかる業務に従事する労働者に発症した腰痛で、作業の状態や作業期間等からみて、業務が原因で発症したと認められるもの。

 

 つまり、特段突発的な出来事があったわけではなく症状が発現・悪化したような場合には、当該労働者の業務が腰に与える負担の度合いについて、「過度の負担」とまでいえるかどうかや、実際の作業の状態や作業期間について、慎重な判断がなされることになります。

 以上のように、腰痛は、業務が一因となって悪化することは考えられるものの、多くの方がり患する疾病であり、日常生活における負荷も要因となるため、労働者の方々が思っているよりも労災補償を受けるためのハードルが高く、そのことによるトラブルも生じやすくなっています。

 

<具体例>

(1)災害性の原因による腰痛

 次のような、突発的に思いがけない負荷が腰にかかったようなケースが挙げられます。

 ・重量物の運搬作業中に転倒した。

 ・重量物を2人で担いで運搬する最中に、そのうちの1人が滑って肩から荷を外した。

 ・持ち上げる重量物が予想に反して重かった(逆に、軽かった)。

 ・不適当な姿勢で重量物を持ち上げた。

 

(2)災害性の原因によらない(非災害性の)腰痛

 筋肉の疲労が原因なのか、骨の変化が原因なのか、その発症原因により2つに区分されます。

 

 ① 筋肉等の疲労が原因である場合

  次のような業務に比較的短期間(約3か月以上)従事したケース。

  ・約20kgの重量物の取扱いを繰り返すため、中腰の姿勢を保持(港湾荷役)

  ・毎日数時間、腰にとって極めて不自然な姿勢を保持(柱上作業をする配電工)

  ・長時間立ちあがらずに同一の姿勢を保持(長距離トラック運転手)

  ・腰に著しく大きな振動を受ける作業を継続(車両系建設用機械の運転手)

 

 ② 骨の変化が原因である場合

  次のような業務に相当長期間(約10年以上)継続して従事したケース。

  ・約30kgの重量物を取り扱う業務

    →労働時間の3分の1程度以上に及んで取り扱うか否か。

  ・約20kgの重量物を取り扱う業務

    →労働時間の2分の1程度以上に及んで取り扱うか否か。

 

 つまり、腰に負荷がかかる姿勢を長時間「保持」するような業務か、重量物を取り扱うため度々そのような姿勢をとるものの「保持」まではしない業務なのかによって、業務従事期間が約3か月以上(①)でいいのか、約10年以上(②)必要なのかが変わってきます。

 

 例えば、介護施設における入所者の入浴介助や移乗に関する業務は、一時的に腰に負荷がかかるものの、長時間入所者の体重による負荷がかかる姿勢を保持されるとまではいえないため、基本的には上記②の基準に従い、業務の時間が労働時間のどのくらいの時間をしめているのかをみる必要が生じます。

 体重30kg以上の大人の移乗業務であれば、1日の労働時間が8時間の場合、当該業務が約2時間40分以上必要であるという計算になります。

かつ、その業務に従事している期間が約10年以上必要です。

 

 以上のように、腰痛は、業務が一因となって悪化することは考えられるものの、多くの方がり患する疾病であり、日常生活における負荷も要因となるため、労働者の方々が思っているよりも労災補償を受けるためのハードルが高く、そのことによるトラブルも生じやすくなっています。

 

お困りの際は、弁護士法人アステル法律事務所へご相談ください。

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