トピックス
2022/12/02 破産トピックス 破産手続の流れ
破産手続開始の申立て
1 はじめに
破産手続の開始は、債務者の財産への介入とともに、債権者に対して権利実行の制約をもたらすことになります。したがって、このような介入や制約を正当化する事情がない限り、手続を開始することはできません。
このような倒産処理手続の開始を正当化する事情を、「破産手続開始の原因」と呼びます。申立後、裁判所に破産手続開始の原因の存在が認められて、初めて破産手続開始決定が出されることになります。
2 破産手続開始の原因
⑴ はじめに
破産手続開始の原因の代表的なものは支払不能(法15条1項)であり、支払不能を推定するものとして支払停止(同条2項)が存在します。それに加え、債務者が法人の場合は債務超過(法16条1項)も破産手続開始の原因となります。本稿では、主としてこれらについて解説します。
なお、相続財産については、相続財産をもって相続債権者及び受遺者に対する債務を完済することができないことが破産手続開始の原因となりますが(法223条)、本稿では詳細は割愛します。
⑵ 支払不能
破産法2条11項は、支払不能を「債務者が、①支払能力を欠くために、②その債務のうち弁済期にあるものにつき、③一般的かつ④継続的に弁済することができない状態」と定義しています。
① 「支払能力を欠く」について
「支払能力を欠く」とは、財産、信用又は労務等のいずれをとっても、債務を支払う能力に欠けることを意味します。すなわち、財産がなくても、信用、労力ないし技能によって金銭の調達ができれば支払不能とは評価されません。
② 「弁済期にある」債務について
「弁済期にある」債務について弁済できない状態が必要であるため、将来履行期が到来する債務を弁済できないことが見込まれても、支払不能とはいえません。
③ 「一般的」について
「一般的」に弁済できないとは、弁済期にある債務のすべてを支払うことができないことを意味します。すなわち、弁済期にある債務の一部を支払うことができても、残りの債務を支払うことができなければ、この要件を満たすことになります。
④ 「継続的」について
一時的な資金ショートの場合にまでも破産手続を開始することは債務者にとって酷な結果となりますので、弁済できない状態の継続性が要件とされています。
上記のとおり、支払不能の認定には債務者の信用力や稼働力、財産状況のみならず、弁済期にある債務全般について総合的な考慮が必要であり、この証明には困難が伴います。そこで、以下で解説するとおり、証明が容易な債務者の行為である「支払停止」があれば、支払不能が推定されます(法15条2項)。
⑶ 支払停止
支払停止とは、債務者が、支払能力を欠くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えて、その旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいうものと解されています(最判昭和60年2月14日、最判平成24年10月19日)。
支払不能の推定には表示行為の証明があれば足りますので、申立権者が過去のある時点で支払停止の事実が生じたことを立証すれば、これを争う者が支払不能でないことを立証しない限り、破産手続開始の原因が認められます。
表示行為の具体例は、明示的なものは債権者に対する受任通知、貼り紙、広告等が、黙示的なものは夜逃げや手形の不渡り(通常、2回目の不渡りを以て支払停止とするのが相当とされています。)等があります。
なお、支払不能である旨が外部に表示される必要がありますので、債務者が弁護士との間で破産手続開始申立ての方針を決めただけでは、原則として支払停止には該当しません。特に個人破産であれば、破産手続を受任した弁護士が、債務者の代理人として、今後破産手続を執ることを理由に弁済を停止する旨の受任通知を送付することで支払停止とされるケースが大半です。
⑷ 債務超過
債務超過は、債務者がその債務につきその財産をもって完済することができない状態をいい(法16条1項)、具体的には、債務総額が資産総額を超過している客観的な状態を指します。
債務超過の判断においては、信用や労力・技能等は資産として斟酌されず、弁済期未到来の債務も債務額の中に計上されます。なお、資産を清算価値と継続企業価値のいずれで評価すべきかは争いがありますが、多くの事案では破産手続開始時点で事業は既に事実上廃止されていますので、資産の処分を前提とする清算価値を基準とすべきケースが多いとされます。
債務超過は、債務者が法人の場合にのみ破産手続開始の原因とされています。
3 申立権者
⑴ 債務者
債務者は、個人であるか法人であるかを問わず破産手続開始の申立権者とされており(法18条1項)、破産者が自ら破産手続開始を申し立てる場合を「自己破産」といいます。自己破産の場合、債務者が申立てをすること自体が破産手続開始原因の存在を事実上推定させるため、その存在を疎明する必要はありません。
法人の場合、法定の手続を経た上で代表権限を有すると認められる者が申立てをすれば、自己破産として認められます(ex.取締役会設置会社において、取締役会の決議を経て代表取締役が申立てをする場合等)。
⑵ 債務者に準ずる者(準自己破産)
法人破産の場合、取締役や理事等の債務者に準ずる者も、固有の申立権限を有しており(法19条1項・2項・4項)、このような者が申し立てる場合を「準自己破産」と呼びます。この場合、全員の意見の一致があるときを除いて、破産手続開始の原因となる事実を疎明しなければなりません(同条3項)。
⑶ 債権者
破産手続開始決定がされた場合に破産債権(法2条5項)を有する者も、申立権を有します(法18条1項)。これは、期限未到来の債権や条件付債権、保証人などの将来の求償権を有する債権者(法103条2~4項)も申立てが可能です。
ただし、財団債権者(法2条7・8項)や取戻権者(法62条)は、破産手続外での権利行使が可能であり、破産手続を利用する必要が無いため、申立てはできません。
債権者は、申立ての際、その有する債権の存在及び破産者の破産手続開始の原因となる事実について疎明しなければなりません(法18条2項)。これは、単なる嫌がらせや威嚇等を目的とする濫用的な申立てを排除する趣旨となっています。
4 おわりに
実務上の多くは自己破産申立てである以上、破産手続開始の原因となる事実の疎明が必要となる事案は多くありません。
しかし、破産手続開始の原因が生じると、債権者平等の原則が強く働くようになり、以後の債務者の行為は、否認権行使の対象とされたり、個人破産の場合は免責の可否に関わる可能性も生じます。そのため、債権者への支払が困難となった際には、専門家に相談の上で適切な行動を取ることが必要になります。
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