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労働法トピックス

2024/08/10   労働法トピックス   労災  

労働災害の補償

1 労災保険制度とは

労働災害により死亡、負傷、疾病等が発生した場合、市民法上は、使用者側に安全配慮義務違反等があれば、労働者から使用者に対して損害賠償責任を追及することでその補償を実現することになります。しかし、使用者・労働者間の情報格差等に鑑みると、労働者側が使用者の責任を立証するのは困難なことが多いです。また、仮に立証できたとしても、使用者に資力が無ければ損害の賠償を受けられないおそれもあります。

そこで、使用者は労働者を業務に従事させることで利益を上げているため、労働災害により発生する危険は使用者が負担すべきという考えから、労災補償制度が普及しました。そして、一定の規模・業種の事業を強制適用事業として、使用者の労災補償責任を填補する「労災保険制度」が、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」といいます。)により規定されました。

労災保険は、①業務上の事由または通勤による労働者の負傷・疾病・障害・死亡等に対して迅速・公正な保護をするため必要な保険給付を行い、②それらの負傷・疾病にかかった労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図る制度とされます(労災保険法1条)。①の目的を遂行するのが「保険給付」、②の目的を遂行するのが「社会復帰促進等事業」になりますが、本稿では主に「保険給付」について解説します。

2 保険給付について

⑴ はじめに

保険給付は、従来の「業務災害に関する保険給付」と「通勤災害に関する保険給付」に加え、平成12年改正で脳血管疾患・心臓疾患の予防・治療のための「二次健康診断等給付」が、令和2年改正で副業・兼業など複数の使用者の下で就労する複数事業労働者の労働災害について「複数業務要因災害に関する保険給付」が追加されました(労災保険法7条1項)。

このうち、「業務災害」、「通勤災害」及び「複数業務要因災害」については保険給付の内容がほぼ同一となっています。以下が保険給付の内容を概観した表です。

⑵ 保険給付の内容について

給付の種類

給付の内容

療養補償給付

診察、薬剤・治療材料の支給、処置・手術、居宅における看護、病院への入院・看護、移送の現物給付(労災保険法13条)。

休業補償給付

療養中の休業の4日目から支給され、1日当たり給付基礎日額の60%が支給される(労災保険法14条)。休日や出勤停止期間のように賃金請求権が発生しない日にも支給される。

※これに加え、社会福祉促進等事業の1つとして、1日当たり給付基礎日額の20%の休業特別支援金が給付される。

障害補償給付

労働災害による負傷・疾病が治癒(または症状が固定)したときに身体に障害が存する場合、その障害の程度に応じて、障害補償年金または障害補償一時金として支給される(労災保険法15条)。

※これらに加え、社会復帰促進等事業として、障害等級に応じた障害特別支給金、障害特別年金、障害特別一時金が支給される。

遺族補償給付

労働災害による死亡について、その遺族に遺族補償年金または遺族補償一時金として支給される(労災保険法16条)。

※これらに加え、社会復帰促進等事業として、遺族補償年金の受給権者には遺族特別年金、遺族補償一時金の受給権者には遺族特別一時金が支給され、いずれの受給権者にも遺族特別支給金が支給される。

葬祭料

労働災害により死亡した者の葬祭を行う者に対し、葬祭に通常要する費用を考慮して厚生労働大臣が定めた金額の葬祭料が支給される(労災保険法17条)。

傷病補償年金

業務上の負傷・疾病が療養開始後1年6か月を経過しても治っていない場合であって、1年6か月を経過した日において当該負傷・疾病による障害の程度が1級~3級(全部労働不能)の程度に達している場合に当該労働者に対し支給される(労災保険法12条の8第3項)。

※これに加え、社会福祉促進等事業として、傷病特別支給金及び傷病特別年金が支給される。

介護補償給付

障害補償年金または傷病補償年金を受ける権利を有する労働者が、一定以上の等級の障害により、常時または随時介護を要する状態にあり、かつ、常時または随時介護を受けているときに、その請求により月単位で支給される(労災保険法12条の8第2項)。

二次健康診断等給付

直近の定期健康診断等(一次健康診断)において、血圧検査、血液検査その他脳・心臓疾患に関わる検査(厚生労働省令で定めるもの)が行われた場合、そのいずれの項目にも異常所見があると診断されたことを保険事故として、当該労働者の請求により、脳血管・心臓の状態を把握するための二次健康診断、及び脳・心臓疾患の発生の予防を図るための医師または保健師による特定保健指導を、当該労働者の負担なく行うもの(労災保険法26条以下)。

以上の通り、保険給付の内容は多岐にわたり、かつ充実したものとなっていますが、労働者に負傷・疾病・障害・死亡等が生じた際に直ちに認められるわけではありません。

以下では、特に「業務災害」及び「通勤災害」について、認定がされるための要件等を解説します。

3 「業務災害」の認定について

⑴ 「業務災害」の定義

「業務災害」とは、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」を指します(労災保険法7条1項1号)。「業務上」といえるためには、当該労働者の業務と負傷等の結果との間に、当該業務に内在または随伴する危険が現実化したと認められるような相当因果関係が必要とされています。

この判断基準は、「業務に関連した事故による傷病・死亡の場合」と、「業務に関連して疾病に罹患した場合」とで異なりますので、それぞれ解説します。

⑵ 「業務上の傷病・死亡」の認定について

事故性の傷病・死亡の場合、まず、①当該事故が業務遂行中に起こったか否か(業務遂行性)を判定し、これが認められる場合に②傷病が業務に起因して発生したか否か(業務起因性)を判定するという2段階の審査が行われます。

ア 「業務遂行性」の判断

「業務遂行性」とは、判例上、「労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態」を指すとされています。すなわち、①労働者が事業場内で具体的な業務に従事しているときのみならず、②事業場内で業務に従事していない時間や(ex.作業場内での休憩時間や始業前・終業後)、③事業場外において業務に従事するなど使用者の支配下にあるといえるとき(ex.出張中)に生じた災害についても、使用者の支配下にある状態として業務遂行性が認められています。

イ 「業務起因性」の判断

上記①~③の類型ごとに判断が分かれますので、以下で概観します。

類 型

業務起因性の有無

①事業場内での具体的な業務中に生じた災害

原則:業務起因性が認められる。

※ただし、自然現象(ex.地震、落雷等)や本人の規律違反行為によって生じた場合等に例外的に否定される。

②事業場内で具体的な業務に従事していない、休憩時間や始業前・終業後に生じた災害

原則:業務起因性が否定される。

※ただし、事故が事業場の施設・設備の欠陥によって生じた場合や、業務に通常随伴する行為(ex.トイレへの移動や職場内の歩行等)により生じた場合は、例外的に認められ得る。

③出張中など事業場外での労働により生じた災害

原則:業務起因性が認められる(事業場内に比べて危険にさらされる範囲が広いため、広く認められる)。

※ただし、積極的な私的行動(ex.出張先での業務終了後に私用で外出した際に生じた事故等)による災害等は、例外的に否定される。

 

⑶ 「業務上の疾病」の認定について

事故によらない業務上の疾病については、上記⑵の事故性の傷病・死亡の場合に比べ、業務起因性の有無が主として問題になります。

発生した疾病が業務に起因するか否かの判断には専門的な医学的知識を要するので、迅速・定型的な判断を可能とするため、労働基準法施行規則別表第1の2において、下記の通り類型的に列挙されています。

①業務上の負傷に起因する疾病(ex.災害性腰痛)

②物理的因子(紫外線、赤外線、熱など)による一定の疾病(ex.熱中症)

③身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する一定の疾病(ex.チェーンソー等の振動器具使用による末梢循環障害等)

④化学物質等による一定の疾病(ex.酸素濃度の低い場所における業務による酸素欠乏症等)

⑤粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症またはじん肺合併症

⑥細菌、ウイルス等の病原体による一定の疾病(ex.患者の診療・看護その他病原体を取り扱う業務による伝染性疾患等)

⑦がん原性物質・因子またはがん原性工程における業務による一定の疾病(ex.ベンジジンにさらされる業務による尿路系腫瘍等)

⑧過重負荷による脳・心臓疾患

⑨心理的負荷による精神障害

⑩厚生労働大臣の指定する疾病(ex.超硬合金の粉じんを飛散する場所における業務による気管支肺疾患等)

⑪その他業務に起因することの明らかな疾病

 

上記のうち、①~⑩に該当する疾病は、特段の反証の無い限り「業務上の疾病」として認定されます。①~⑩に該当せずとも、労働者側で「業務に起因すること」の立証ができれば、⑪「その他業務に起因することの明らかな疾病」として認定されます。

4 「通勤災害」の認定について

「通勤災害」とは「労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡」をいいます(労災保険法7条1項2号)。

「通勤」とは、労働者が、就業に関し、①住居就業場所との間の往復、②就業場所から他の就業場所への移動、③①の往復に先行または後続する住居間の移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除きます。しかし、前記①~③の移動の経路を逸脱・中断した場合は、その逸脱・中断の間及びその後の移動は「通勤」には該当しないとされます。

上記下線部の定義及び具体例は下表の通りです。

 

定 義

「通勤による」

経験則上、通勤と相当因果関係にある(すなわち通勤に通常伴う危険の現実化)とみなされること。

ex.通勤途上の交通事故等。

「就業に関し」

「業務に就くため、または業務を終えたため」の意味であり、移動行為と業務との密接な関連性が必要になる。

ex.単なる終業後の他、組合活動のため居残りをした後の帰路等。

「住居」

労働者の就業の拠点となる居住場所である。

ex.単なる居住地の他、単身赴任者の赴任先住所や反復継続して帰省する住居等。

「就業の場所」

業務を開始し、または終了する場所。

ex.外勤業務で自宅から直行直帰する場合の最初または最後の用務先、業務性を有する懇親会後に帰路につく場合の懇親会場等。

「合理的な経路及び方法」

前記①~③の移動を行う場合、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び手段。通常用いている経路・手段のみに限られず、合理的な代替経路・手段も該当する。

ex.子どもを保育園等に預けるための経路等。

5 おわりに

以上の通り、労災保険には手厚い補償が定められており、特に通勤中・業務中に何らかの被災を受けた場合、救済を受ける方法として真っ先に検討すべき選択肢の一つといえます。

しかし、保険給付のための認定等でトラブルになることも多く、争うためには適切な資料の収集や専門的な知識が必要となります。

お困りの際は、お気軽にアステル法律事務所にご相談ください。

以上

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