企業法務トピックス
2018/02/16 企業法務トピックス
取締役が会社に対して負う責任~経営判断原則とは~
Q.
当社(A社)では、海外事業の一環としてP国への出店を計画し、現地のB社に出店用地の買収を依頼し、そのために資金をB社に貸し付けました。
しかし、結局土地の買収は成功せず、出店を断念することになりました。B社に貸し付けた資金は一部しか回収することができず、A社は大きな損失を被ってしまいました。
取締役である私(X)は、A社の株主から責任追及を受けてしまうのでしょうか。
A.
貸付けにあたって、事実調査やその認識に誤りがあったか否か、その事実に基づく判断が一般的に不合理と言えるほどのものであったかどうかで結論が変わります。
【解説:経営判断の原則】
経営判断に冒険は不可避であり、結果的に会社に損失を与えてしまった場合に、結果論的に取締役に責任を負わせてしまうのは不当であると考えられています。また、そのような形で責任を負うとなれば、取締役の判断の萎縮にもつながります。
そこで、裁判所は、原則として、経営判断に事後的に介入しないという考え方が採用されています。
取締役の任務懈怠により会社に損害が発生した場合、取締役は会社に対して善管注意義務違反に基づく損害賠償責任を負いますが(会社法423条1項)、経営判断に属する事項については、「取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況及び会社を取り巻く社会、経済、文化等の情勢の下において、当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験を基準として、①前提としての事実の認識に不注意な誤りがなかったか否か及び②その事実に基づく行為の選択決定に不合理がなかったか否かという観点から、当該行為をすることが著しく不合理と評価されるか否か」で、任務懈怠と評価されるか否かが決定されるとしています(東京地裁平成16年9月28日判決。)。これを「経営判断原則」と言います。
上記の事例も、例えば①貸し付けに際して、土地の買収が奏功する可能性等について十分な調査・検討のプロセスをA社内で踏んでいたか否か、②調査・検討を行った結果として、貸し付けという判断に至ったことが不合理と評価できるか否かが、大きなポイントになるでしょう。
裁判例でも、資産状況が危殆に瀕した会社に対して巨額の融資を決定した事案で、融資先の会社の経営再建の可能性や、再建可能とすればその必要資金や期間等を含めて具体的なプロセスを検討しなければならなかったにもかかわらず、これを怠ったとして、役員の責任を認めたものがあります(札幌高裁平成17年3月25日判決)。
Q.
証券会社である当社(A社)は、顧客に対して、証券取引から生じた損失を填補しました。金融商品取引法上、損失補てんは禁じられていますが、大口の顧客であったため、A社の利益の為にはやむを得ないと判断した結果でした。
取締役である私(X)は、A社の株主から損害賠償(損害は補填額)を受けてしまうのでしょうか。
A.
法令違反行為には、経営判断原則は適用されないため、原則として任務懈怠として株主に対する責任を負ってしまいます。
【解説:法令違反行為について】
法令違反行為に対しては、経営判断原則は適用されません。すなわち、法令違反行為により得られる利益と損失(罰金等)を比較し、前者が後者を上回る場合であっても、あえて法令違反行為を行うという経営判断は許されないことになります。これは、会社法のみでなく、会社が事業を行う際に遵守すべき法令すべてが含まれます。
この根拠としては、あらゆる法令を遵守して経営を行うことが、取締役・執行役を選任する株主の合理的な意思であると言えるからです。
まとめ
以上の通り、取締役の経営判断について、裁判所は原則として介入しない立場ではありますが、①事実の認識に関する不注意や、②事実に基づく行為の選択が不合理であったような場合、責任を問われる場合はあり得ます。
特に、①については、社内での会議録や、事実調査の経緯等に関して記録化しておくことが肝要でしょう。
また、法令違反行為であれば、経営判断が適用されずに任務懈怠と評価されてしまいますので、日ごろからコンプライアンスの意識を高めておくことが必要です。
新規で事業を始められる際には、一度リスクヘッジ等に関するご相談をいただければと思います。
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