労働法トピックス
2022/01/12 休業~産休・育休を中心に~ 労働法トピックス
妊娠中の女性の産前産後休業等
1 産前産後休業
⑴ 産前の休業 ―請求による取得
労基法においては、出産予定日6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)の女性労働者から休業の請求があった場合は、その女性労働者を就労させてはならないと定めています。もっとも、産前の休業は、女性労働者から請求があった場合にその付与が義務付けられる休業であり、女性労働者からの請求がなければ、与える必要はありません。
⑵ 産後の休業 ―義務的取得
上記⑴に対し、出産日から8週間後までの産後の休業は、本人の請求の有無を問わず与えなければならない強制的な休業です。ただし、産後6週間を経過した場合に、女性労働者から就業の請求があった場合、医師により支障がないと認められた業務に就かせることは可能です。
⑶ 賃金支払義務なし
この産前産後休業の期間は、法律上、企業側の賃金支払義務はありません。
もっとも、健康保険から、賃金の3分の2に相当する額が出産手当金として支給されることになります。
社会保険料は、労使ともに産前産後休業期間中は免除されますので、忘れずに届け出る必要があります。
⑷ 不利益取扱いの禁止
男女雇用機会均等法では、妊娠、出産、労基法上の産前産後休業の請求・取得、その他妊娠・出産に関して厚生労働省令で定める事由を理由とした不利益取扱いが禁止されています。厚生労働省令で定められているものの中には、妊娠・出産に起因する病状によって労働不能や労働能率の低下が生じたことを上げています。
例えば、産前産後休業や妊娠・出産に起因する病状による病気休職について無休とすること自体は問題ないのですが、他の病気休職は有給扱いなのに産前産後休業は無給扱いである等、他の不就労の場合と比較して不利になっている場合には、不利益取扱いとして違法であるとされるおそれがありますので注意が必要です。
2 妊娠中の女性に対する法規制
⑴ 時間外労働等の制限 ―請求による制限
妊娠中の女性に対しては、女性労働者からの請求がある場合、時間外労働・休日労働や深夜業をさせてはいけません。
⑵ 危険有害業務の制限 ―禁止
上記⑴に対し、いわゆる危険有害業務については、本人の請求の有無を問わず、就業させることが禁止されます。
禁止されるのは、重量物取扱い業務、有害ガス発散場所における業務その他妊産婦の妊娠・出産・哺育等に有害な業務とされています。その他の有害業務としては、女性労働基準規則において、以下のようなものが指定されています。土木建設業関連を中心に、金属加工業、林業等様々な業務が含まれます。
例)ボイラーを取り扱う業務
クレーンを運転する業務、クレーンに玉掛けをする業務
土木建築用機械を運転する業務
土砂が崩壊する恐れのある場所での業務
プレス機械等を用いる金属加工業務
立木伐採業務
鉛や水銀等の有害なガス、蒸気、粉じんを発散する場所での業務
著しい振動を与える機械器具を用いて行う業務
これらの業務の多くは、産後についても、産後1年間は就業制限がかかります。
⑶ 軽易業務への転換 ―請求による転換
妊娠中の女性から、現在の業務とは違う軽易な業務への転換の請求があった場合、企業側はこれに応じる必要があります。
本人から現在の業務の負担が大きい旨の申し出があった場合、業務量の調整をもって対応するのか、業務の内容自体を軽易な業務に転換する必要があるのかは、本人の意向を確認する必要があるものと考えられます。本人の転換を求める意思が確認できた場合には、軽易な業務に転換する義務が生じます。
本人が示す意向があいまいで、配慮を求めるようなものである場合には、業務軽減等適切な措置をとらなかったことについて、企業側の健康配慮義務違反として、損害賠償責任が生じることがありえます。裁判例では、本人との面談時に「妊婦として扱うつもりないんですよ」等の発言があり、その後も適切な措置をとらなかった事案で、損害賠償責任が認められています(福岡地裁小倉支部H28.4.19判決)。
軽易な業務へ転換する際には、待遇等について不利益取扱いとならないよう注意が必要です。軽易な業務への転換を契機として降格措置がなされた場合には、その降格措置が不法行為として、損害賠償責任が追及されるおそれがあります。
⑷ 健康診査等の時間の確保
男女雇用機会均等法においては、妊娠中の女性が母子保健法の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにする義務を企業側に課しています。
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