労働法トピックス
2022/05/23 労働時間 労働法トピックス
労働時間規制
長時間労働の制限による健康の確保、労働生産性の向上、ワークライフバランスの改善による女性・高齢者の労働参加率向上、男性の家庭参加促進等のため、働き方改革の一環として、時間外労働の上限規制が設けられました。
2020年4月以降は、中小企業も含め、すべての企業に対し適用されています。
1 法定労働時間
労働基準法第32条で定められた労働時間の上限は、1日8時間及び1週間40時間です。これを、「法定労働時間」といいます。また、使用者は、原則として、毎週少なくとも1日の休日を与えなければなりません(労基法第35条第1項)。これを、「法定休日」といいます。
労働者に、法定労働時間を超えて時間外労働をさせる場合や、法定休日に労働させる場合には、①労働基準法第36条に基づく労使協定(いわゆる「36協定」)の締結と②労働基準監督署への届け出が必要です。
従前は、厚生労働大臣の限度基準告示によって時間外労働の上限の基準が定められ、これに反する場合には行政指導の対象となりました。もっとも、罰則による強制力がなく、また、36協定に臨時的な特別の事情がある場合に関する特別条項を設けることにより、上限を超える時間外労働を行わせることが可能でした。
働き方改革関連法の施行により、労働基準法が改正され、現在では、罰則付きの上限が規定され、かつ、臨時的な特別な事情がある場合にも超えることのできない上限が設けられています。
2 規制内容
1)36協定で定めるべき事項
36協定を締結せずに時間外労働をさせた場合や36協定で定めた時間を超えて時間外労働をさせた場合は、労働基準法第32条に反することになり、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます(労働基準法第119条第1号)。
時間外労働の上限が規定されたことに伴い、以下のとおり、36協定で定めるべきことも改められました(2021年4月付厚生労働省「時間外労働の上限規制わかりやすい解説」より。)。厚生労働省のHPで、用途に応じたモデル様式が公開されていますので、ご参照ください。
なお、厚生労働省労働基準局の見解によれば、後述する、36協定により延長できる時間の限度時間や特別条項を設ける場合の1ヶ月・1年の延長期間の上限、特別条項により月45時間を超えて労働させることができる月数の上限を超えている36協定は、超過部分のみならず、全体として無効になります。
ア)時間外労働・休日労働を行わせる必要がある使用者は、以下の事項について協定する必要があります(労働基準法第36条第2項)。
イ)臨時的な特別な事情がある場合に、時間外労働の限度時間(月45時間・年360時間)を超えて時間外労働を行わせる必要がある使用者は、以下の事項についても協定する必要があります(労働基準法第36条第5項)。
2)通常の時間外労働・休日労働の上限
①36協定により延長できる時間の限度時間
時間外労働の上限は、原則として、月45時間・年360時間となります(労働基準法第36条第4項)。
②1ヶ月の時間外労働・休日労働の合計時間は、月100時間未満にしなければなりません(労働基準法第36条第6項第2号)。
③時間外労働・休日労働の合計時間について、直前の2ヶ月平均、3ヶ月平均、4ヶ月平均、5ヶ月平均、6ヶ月平均がいずれも、月80時間以内にしなければなりません(労働基準法第36条第6項第3号)。
上記②③に違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます(労働基準法第119条第1号)。
3)臨時的な特別の事情がある場合に関する特別条項の上限
当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い、臨時的に36協定により延長できる時間の限度時間(上記①)を超えて労働させる必要がある場合には、労使合意の上、以下の範囲で時間外労働・休日労働を延長することができます(労働基準法第36条第5項)。
㋐時間外労働が年720時間以内(上記①の延長)
㋑時間外労働・休日労働の合計時間が、月100時間未満(上記②に同)
㋒時間外労働・休日労働の合計時間について、直前の2ヶ月平均、3ヶ月平均、4ヶ月平均、5ヶ月平均、6ヶ月平均がいずれも、月80時間以内(上記③に同)
㋓時間外労働が月45時間(上記①)を超えることができる月数は、1年間で6ヶ月が上限となります
どのような場合が「臨時的な特別の事情がある場合」にあたるかは、労使協定で規定しておかなければなりません。この点、厚生労働省労働基準局の見解では、「全体として1年の半分を超えない一定の限られた時期において一時的・突発的に業務量が増える状況等により限度時間を超えて労働させる必要がある場合」をいうものとされており、具体例として、予算・決算業務、ボーナス商戦に伴う業務の繁忙、納期の逼迫、大規模なクレームへの対応、機械のトラブルへの対応が挙げられています。「業務の都合上必要な場合」「業務上やむを得ない場合」等、抽象的な規定は、恒常的な長時間労働を招くおそれがあるとして認められないものとされています。
労働基準法の改正に伴い、時間外労働・休日労働の制度設計の見直しが必要です。違法状態で運用していた場合、罰則や未払賃料請求を受けるリスクがあります。
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