労働法トピックス
2022/10/19 労働法トピックス 雇用契約
定年制と高年齢者就業確保措置
労働者が一定の年齢に達した時に、労働契約が終了する定年制については、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下「高年齢者雇用安定法」といいます。)による規制があります。同法について、令和3年4月1日施行の改正(~70歳までの就業機会の確保のために事業主が講ずべき措置について~)がありましたので、従前の高年齢者雇用確保措置を簡単にご説明した上で、改正の内容に触れたいと思います。
1 定年を定める場合の年齢
定年制を採用している事業主は多いと思われますが、定年の定めをする場合、当該定年は60歳を下回ることができません(高年齢者雇用安定法8条)。
2 高年齢者雇用確保措置
また、65歳未満の定年の定めをしている事業主は、65歳までの安定した雇用を確保するため、①当該定年の引き上げ、②継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは定年後も引き続いて雇用する制度、)の導入、③定年の定めの廃止(以下、①ないし③を合わせて「高年齢者雇用確保措置」といいます。)のいずれかを講じなければなりません(高年齢者雇用安定法9条1項)。
厚生労働大臣は、高年齢者雇用確保措置を講じていない事業主に対して、助言・指導を行うことができ、助言・指導をしてもなお違反している場合には勧告を行うことができ、勧告にも従わなかった場合にはその旨の公表を行うことができます(高年齢者雇用安定法10条1項ないし3項)。
以上の行政措置に加えて、事業者が高年齢者雇用確保措置をいずれもとらなかった場合、私法上、労働者に対し、不法行為責任を負う可能性があります。
多くの事業主は、②継続雇用制度(いわゆる再雇用制度は、この継続雇用制度に当たります。)を採用しているものと思われますが、原則として、継続雇用を希望する労働者全員を再雇用する必要があります(高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針―平成24年11月9日厚生労働省告示第560号―)。例外的に、心身の故障のため業務に耐えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由又は退職事由に該当する場合には、継続雇用しないことができますが、定年前の解雇の場合と同様、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められることに留意が必要です。
3 65歳から70歳までの高年齢者就業確保措置
上述のとおり、65歳までの高年齢者を対象に、高年齢者雇用確保措置が義務付けられてきましたが、令和2年高年齢者雇用安定法改正により、70歳までの就業機会の確保を図る目的で、65歳から70歳までの安定した雇用または就業を確保する措置(以下「高年齢者就業確保措置」といいます。)を講じることが事業主の努力義務とされました(高年齢者雇用安定法10条の2、令和3年4月施行)。
すなわち、事業主は、以下の措置のいずれかを講じる努力義務を負います(高年齢者雇用安定法10条の2第1項及び第2項)。
①定年の引き上げ ②65歳以上の継続雇用制度の導入 ③定年の定めの廃止の措置 ④高年齢者の希望により、新事業を始める高年齢者と事業主との間で業務委託契約(事業主が当該高年齢者に金銭を支払うものに限る。)を締結し、就業を確保する措置 ⑤当該高年齢者の希望により、㋐事業主が実施する社会貢献事業、㋑事業主が委託して他の団体等が実施する社会貢献事業、㋒事業主が必要な資金提供等の援助を行い他の団体が実施する社会貢献事業について、当該事業の実施者が当該高年齢者との間で業務委託契約を締結し、就業を確保する措置 |
ただし、④及び⑤については、過半数労働組合(それがない場合は過半数代表者)の同意を得る必要があります。
これらの65歳以上の「就業」確保措置は、65歳までの「雇用」確保措置と異なり、起業、有償ボランティア等を含むより柔軟な形態での「就業」確保に努めるよう求められている点に特徴があります。なお、高年齢者就業確保措置は、現状あくまで「努力義務」ですが、高年齢者の就業確保を進めている政策の流れに鑑みれば、当該規定が義務規定化されるのも時間の問題であると思われます。
高年齢者就業確保措置はオプションが多数あることから、どのような制度設計・運用を行っていくか、悩む場面も多いと思います。
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