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2023/08/22 免責手続と非免責債権 破産トピックス
免責手続について
1 はじめに
個人の方が自己破産を申し立てる最大の目的は、裁判所から免責許可決定を得て負債を帳消しにし、更生に向けて新たなスタートを切ることにあります。
しかし、自己破産を申し立てれば必ず免責許可決定が得られるわけでは無く、破産法上の免責不許可事由(法252条1項1号~11号)に該当する場合、免責が許可されないこともあります。
以下では、免責許可決定を得るための要件等について解説していきます。
2 免責不許可事由について
本来は支払わなければいけない債務について、その責任を免れさせる「免責」は、非常に効果が高い反面、無制限に認めることはモラル・ハザードの危険性に繋がります。この歯止めのため、免責を許可すべきで無い事由を法律上列挙したのが、免責不許可事由となります(法252条1項1号~11号)。
逆に、免責不許可事由が無ければ、裁判所は免責許可の決定をしなければならないとされていますので(法252条1項柱書)、免責が許可されるか否かを検討するには、まず免責不許可事由に該当するか否かを精査する必要があります。
免責不許可事由は、①破産者の生活上の不誠実な行為、②破産手続との関係での不誠実な行為、③免責の期間制限の3つに大別されます。以下では類型ごとに免責不許可事由について解説します。
⑴ ①破産者の生活上の不誠実な行為
ア 不当な破産財団価値の減少行為(法252条1項1号)
自己破産は免責に先立ち、自身が所有する財産を換価して債権者に配当する手続を経ることになります(詳細はこちらの記事を参照)。
それにも関わらず、例えば破産手続開始の前後に自身が所有する不動産や車を誰かに譲ったり、現金を親族や友人の口座に移す等により自身の財産を減少させる行為は、債権者に対する不誠実な行為であり、免責不許可事由に該当します(法252条1項1号)。
イ 不当な債務負担行為等(法252条1項2号)
経済的危機に陥った債務者は、破産手続を免れるために高利の借入れを行ったり、クレジットカード等によって購入した商品を換価して金銭を捻出する等の行為に出ることがあります。
このような行為は、経済的合理性を欠く債務負担の増加や、破産手続の開始を遅延させる意味で、破産債権者の利益を害するため、免責不許可事由に該当します(法252条1項2号)。
ウ 不当な偏頗行為(法252条1項3号)
破産手続は全ての債権者を平等に取り扱うことが要請されるため、ある特定の債権者(例:知人や親族等)を優遇する目的で担保を供与したり、弁済等により債務を消滅する行為は、他の債権者の利益を害する行為として免責不許可事由に該当します(法252条1項3号)。
エ 浪費または賭博その他の射幸行為(法252条1項4号)
実務上、問題になることが多いケースです。ギャンブルや遊興の果てに債務を増大させた場合や、当時の財産状況に比して不合理な支出をしたことが原因で過大な債務を負担した場合は、不誠実な行為であり、免責不許可事由に該当します(法252条1項4号)。
オ 詐術による信用取引(法252条1項5号)
破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から破産手続開始決定があった日までの間に、既に負債を返済できない状況にあると知りつつ、支払能力があると誤信させて(例:年収を偽る等)借入れ等をするのは、不誠実な行為であり、免責不許可事由に該当します(法252条1項5号)。
⑵ ②破産手続との関係での不誠実な行為
ア 帳簿・書類の隠滅や偽造(法252条1項6号)
個人事業主等が破産を申し立てる場合、業務や財産状況に関する帳簿、書類等の偽造・隠蔽をする行為は、破産財団を構成する財産の管理を困難にし、債権者の利益を害することから、免責不許可事由に該当します(法252条1項6号)。
イ 虚偽の債権者名簿の提出(法252条1項7号)
前記の通り、破産手続は全ての債権者を平等に取り扱う必要があるため、自己破産を申し立てる際には債権者全てを一覧にした債権者名簿を裁判所に提出する必要があります。この際、迷惑を掛けたくないと思い、故意に親族や知人の名前を債権者名簿に記載しなかった場合等は、不誠実な行為として免責不許可事由に該当します(法252条1項7号)。
ウ 調査協力義務違反行為(法252条1項8号)
破産手続上、裁判所が行う財産関係等の調査(破産管財人を通して行う調査も含みます。)において説明を拒んだり、虚偽の説明をした場合は、不誠実な行為として免責不許可事由に該当します(法252条1項8号)。
エ 不正の手段で破産管財人らの職務を妨害したこと(法252条1項9号)
理由なく破産財団に属すべき財産の引渡しを拒んだり、処分禁止の保全処分に反して財産を処分する等した場合は、破産管財人の業務を妨害する行為として免責不許可事由に該当します(法252条1項9号)。
オ 破産法所定の説明義務違反(法252条1項11号)
破産者の説明義務(法40条1項1号)、重要財産開示義務(法41条)、免責についての調査協力義務(法250条2項)その他破産法に定める義務に違反した場合、破産手続の円滑な進行を阻害する行為として免責不許可事由に該当します(法252条1項11号)。
⑶ ③過去の免責等から7年を経過していない者(法252条1項10号)
以前にも自己破産手続を行い、免責許可の決定が確定した場合に、その確定の日から7年以内に再び免責の申立てを行った場合、免責不許可事由に該当します(法252条1項10号)。
特定の破産者が短期間で繰り返し免責を受けることは、債権者の利益を害することはおろか、破産者の真の経済的再生にも繋がらないという観点から定められた政策的な規定です。もっとも、7年以内であれば直ちに免責不許可となるわけでは無く、後述する裁量免責の可能性も残されてはいますが、短期間で再度の破産に至った経緯・理由がやむを得ないもので、かつ明確な説明ができない限り、一般的にハードルは高いと言えます。
3 裁量免責について
仮に免責不許可事由に該当する場合であっても、直ちに免責が認められなくなるわけではありません。その場合も、「裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる」(法252条2項)と、裁判所の裁量による免責が認められています。
特に、一度目の自己破産であれば、比較的緩やかに裁量免責が認められる傾向があります。免責不許可事由があるからと言って直ちに諦めず、免責不許可事由に該当してしまった経緯・理由を真摯に説明し、反省や生活更生の意欲を裁判所に伝えることができれば、免責許可決定が受けられる可能性があります。
4 おわりに
以上のように、自己破産手続を申し立てさえすれば必ず負債を帳消しにできるわけでは無く、ケースによっては免責許可決定を得られない可能性もあり、他の債務整理の手段を検討すべき場合もあります。
また、免責不許可事由があるにも関わらず自己破産手続を申し立てる場合、裁量免責を得るためには入念な申立ての準備や、申立前後の行動にも注意が必要になり、これには専門的な知識・経験が必須です。
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